節税保険とは?
「節税保険」とは、主に中小企業の経営者を対象とする生命保険で、支払った保険料全額が損金の額に算入でき、課税所得を削減できる保険契約をいいます。満期や契約終了の前に解約することを前提として、加入から数年後に解約し、高い返戻率で解約返戻金をもらうことで節税につなげる保険商品です。払込保険料の大部分が返戻金として戻ってくるにもかかわらず、払い込み時には全額損金で経理処理ができるため、2019年以前は、生命保険各社が中小企業の経営者に競って販売し、行き過ぎた節税ブームが懸念されていました。
この保険は、国内の生命保険会社の約半数に当たる約20社が取り扱っており、この節税ブームの発端は、2017年4月に発売された日本生命の「プラチナフェニックス」といわれています。同商品は、死亡保障がついた定期保険ですが、保障開始から最初の10年間の「第1保険期間」は、病気による死亡は保障せず、ケガや事故などの保障(傷害死亡保険金)だけがついています。加入から10年目に解約返戻率がピークに達し、そこで解約すれば、保険料の80%以上が戻ってくる設計になっており、しかも、国税庁の基本通達にのっとって開発されており、保険料は全額損金扱いが可能でした。

解約時に受け取った保険料は雑収入として課税対象となりますが、退職慰労金や設備投資など、課税所得を打ち消せるだけの損金があれば節税効果が高くなります。

多くの保険代理店は、行きすぎた節税ブームについて、いつかは国税庁の指摘を受けると思っていましたが、一方で、「あの日本生命が金融庁から認可を取った商品だから大丈夫かも?」という思いもあったようです。
バレンタインデーショックとは?
上記の節税保険について、2019年2月14日、国税庁が「返戻率が50%以上の保険商品について課税方法を定めた通達を見直す」と発表、生命保険業界では「バレンタインデーショック」と言われています。
その後、この節税保険をめぐって改正された税法は、「定期保険等」(定期保険と第三分野の保険)に関する以下の税務ルールです。

解約返戻率が50%超の定期保険等について、損金算入割合が見直されました。
法人税基本通達9-3-5の2
法人が、自己を契約者とし、役員又は使用人(これらの者の親族を含む。)を被保険者とする保険期間が3年以上の定期保険又は第三分野保険(以下9-3-5の2において「定期保険等」という。)で最高解約返戻率が50%を超えるものに加入して、その保険料を支払った場合には、当期分支払保険料の額については、次表に定める区分に応じ、それぞれ次により取り扱うものとする。ただし、これらの保険のうち、最高解約返戻率が70%以下で、かつ、年換算保険料相当額(一の被保険者につき2以上の定期保険等に加入している場合にはそれぞれの年換算保険料相当額の合計額)が30万円以下の保険に係る保険料を支払った場合については、9-3-5の例によるものとする。
| 区分 | 資産計上期間 | 資産計上額 | 取崩期間 |
| 最高解約返戻率50%超70%以下 | 保険期間の開始の日から、その保険期間の100分の40相当期間を経過する日まで | その事業年度分の支払保険料の額に100分の40を乗じて計算した金額 | 保険期間の100分の75相当期間経過後から、保険期間の終了の日まで |
| 最高解約返戻率70%超85%以下 | その事業年度分の支払保険料の額に100分の60を乗じて計算した金額 | ||
| 最高解約返戻率85%超 | 保険期間の開始の日から、最高解約返戻率となる期間(その期間経過後の各期間において、その期間における解約返戻金相当額からその直前の期間における解約返戻金相当額を控除した金額を年換算保険料相当額で除した割合が100分の70を超える期間がある場合には、その超えることとなる期間)の終了の日まで (注) 上記の資産計上期間が5年未満となる場合には、保険期間の開始の日から、5年を経過する日まで(保険期間が10年未満の場合には、保険期間の開始の日から、当該保険期間の100分の50相当期間を経過する日まで)とする。 |
その事業年度分の支払保険料の額に最高解約返戻率の100分の70(保険期間の開始の日から、10年を経過する日までは、100分の90)を乗じて計算した金額 | 解約返戻金相当額が最も高い金額となる期間(資産計上期間がこの表の資産計上期間の欄に掲げる(注)に該当する場合には、当該(注)による資産計上期間)経過後から、保険期間の終了の日まで |
ホワイトデーショックとは?
節税保険について、上記のバレンタインデーショックに続いて本年2021年3月、国税庁は各保険会社に対して「経営者向けの定期保険について、法人から個人に名義変更したときの保険評価額の見直す」検討に入ったと伝えられ、生命保険業界では「ホワイトデーショック」と呼ばれています。
法人契約の定期保険の中には、保険契約時から一定の期間は解約返戻金が低く抑えられ、その後に急激に解約返戻金の設定額を引き上げる「低解約返戻金型生命保険」があり、これはいわゆる「名義変更プラン」と呼ばれています。
このプランでは、解約返戻金の設定が低い期間中に保険契約者を法人から個人(経営者等)に名義変更をします。この契約変更時には雇用関係に基づく経済的利益の供与として、その名義変更時の安い解約返戻金相当額が経営者個人の「給与所得」となります。その後、経営者個人が保険契約を引き継ぎ、解約返戻金設定額が急激に引き上げられた際に解約を行い、高い解約返戻金を受け取ることで会社の利益を経営者個人に移転させることができるようになります。
この解約返戻金は「一時所得」として課税されるため、下記の計算式の(いわゆる「1/2課税」)が適用され、役員賞与などでもらうときよりも個人課税を大幅に節税できることになります。
(一時所得の金額-経費-特別控除額)×1/2=一時所得の課税所得金額
今回、国税庁は、上述の名義変更時の安い給与所得課税時の課税関係について、「名義変更時に解約返戻金が保険積立金として資産計上した金額の70%未満となるような低額の場合には、(名義変更時の安い解約返戻金相当額ではなく)帳簿上の保険積立金資産計上額で評価する」ことに変更しました。
変更後の税務ルール(所得税基本通達36-37)は、以下の通りです。この改正は、2021年6月25日付で公表されました。
36-37 使用者が役員又は使用人に対して生命保険契約若しくは損害保険契約又はこれらに類する共済契約(以下「保険契約等」という。)に関する権利を支給した場合には、その支給時において当該保険契約等を解除したとした場合に支払われることとなる解約返戻金の額(解約返戻金のほかに支払われることとなる前納保険料の金額、剰余金の分配額等がある場合には、これらの金額との合計額。以下「支給時解約返戻金の額」という。)により評価する。
ただし、次の保険契約等に関する権利を支給した場合には、それぞれ次のとおり評価する。
⑴ 支給時解約返戻金の額が支給時資産計上額の 70%に相当する金額未満である保険契約等に関する権利(法人税基本通達9-3-5の2の取扱いの適用を受けるものに限る。)を支給した場合には、当該支給時資産計上額により評価する。
⑵ 復旧することのできる払済保険その他これに類する保険契約等に関する権利(元の契約が法人税基本通達9-3-5の2の取扱いの適用を受けるものに限る。)を支給した場合には、支給時資産計上額に法人税基本通達9-3-7の2の取扱いにより使用者が損金に算入した金額を加算した金額により評価する。
(注)「支給時資産計上額」とは、使用者が支払った保険料の額のうち当該保険契約等に関する権利の支給時の直前において前払部分の保険料として法人税基本通達の取扱いにより資産に計上すべき金額をいい、預け金等で処理した前納保険料の金額、未収の剰余金の分配額等がある場合には、これらの金額を加算した金額をいう。
附 則
(経過的取扱い)
この法令解釈通達による改正後の所得税基本通達は、令和3年(2021年)7月1日以後に行う保険契約等に関する権利の支給について適用し、同日前に行った保険契約等に関する権利の支給については、なお従前の例による。

節税保険をめぐる保険会社と国税庁との「いたちごっこ」は、まだ続くのでしょうか?


