はじめに
しばらくRL360(ロイヤルロンドン)の記事ばかり書いていたので、国際FP(国際ファイナンシャル・プランナー)に関する記事も書いていきたいと思います。
今回は、「租税条約」を、東南アジアに移住した方の年金の事例とともにご紹介したいと思います。

租税条約の内容(条文の構成)は、「OECDモデル」と「国連モデル」というひな形があり(OECD加盟国である日本は、主としてOECDモデルの規定を採用)、構成が似ているので、複数の租税条約を見比べると理解しやすくなります。
租税条約の概要
日本が海外の国・地域と締結している租税条約の数は81条約で、対象は145の国・地域です(2021年10月1日現在)。条約数と国・地域数が異なるのは、旧ソ連との条約などが複数の国へ承継されていることなどによります。
日本が締結している全ての租税条約は、以下の財務省のサイトで確認できます。
租税条約の趣旨は「課税関係を安定させること(法的安定性を確保すること)」「二重課税を除去すること」なので、租税条約の条文は、国際間で2重課税が発生する可能性のある取引について、課税する権利がどちらの国にあるかを、取引の種類ごとに規定しています。
具体的には、所得が生じた国(これを源泉地国といいます)が課税できる所得の範囲を確定することがメインです。たとえば、事業利得に対しては、源泉地国に所在する支店等(恒久的施設:PEと呼ばれます。)の活動により得た利得のみについて、源泉地国は課税します。
投資所得(配当、利子、著作権等の使用料・ロイヤルティ)に対しては、源泉地国での税率の上限(免税を含む)を設定します。
東南アジアに移住した場合の、日本の年金の取り扱いを、租税条約で比較してみよう
租税条約を読み解く練習として、退職後に東南アジアに移住した方の、日本の年金の取り扱いを、租税条約で比較してみたいと思います。

この場合、日本で支払われる年金の源泉地国は日本、一方で居住しているのは海外の移住先の国、です。つまり、日本払いの年金は「源泉地国と居住国が異なるケース」に該当するわけです。
ここでは、移住される日本人の方が多い、マレーシア・タイ・シンガポールで比較してみたいと思います。退職年金に関する条項について、日本とマレーシアの租税条約、日本とタイの租税条約、日本とシンガポールの租税条約を比較したものが以下の表です。
| 租税条約 | 退職年金に関する条項 |
| 日本・マレーシア租税条約 | 第18条 次条2の規定が適用される場合(※)を除くほか、過去の勤務につき一方の締約国の居住者に支払われる退職年金その他これに類する報酬に対しては、当該一方の締約国においてのみ租税を課することができる。 (※地方公共団体の退職年金の場合) |
| 日本・タイ租税条約 | 該当の条文はありません。 |
| 日本・シンガポール租税条約 | 第18条 次条2の規定が適用される場合(※)を除くほか、過去の勤務につき過去の勤務につき一方の締約国の居住者に支払われる退職年金その他これに類する報酬及び一方の締約国の居住者に支払われる保険年金に対しては、当該一方の締約国においてのみ租税を課することができる。 (※地方公共団体の退職年金の場合) |
日本・マレーシア租税条約、および日本・シンガポール租税条約においては、年金について、年金受益者の居住地国のみが課税権を有する(つまり、マレーシアやシンガポール側に課税権がある)と規定されていますので、「租税条約に関する届出書(※)」を提出しておけば、源泉地国(日本)での課税が免除されることとなります。ただし、地方公共団体の共済年金等については、日本で課税されます。
※「租税条約に関する届出書」は、年金事務所を経由して税務署に提出します。
一方、日本とタイとの間の租税条約においては、上表の通り、年金の課税権に関する規定がありません。したがって、年金を受け取る際に、日本で源泉徴収課税されることになります。
・65歳未満: 年金の源泉徴収額 =(年金 - 5万円 × 月数 )× 20%
・65歳以上: 年金の源泉徴収額 =(年金 - 9.5万円 × 月数 )× 20%
平成30年度税制改正により、非居住者の源泉徴収税額の計算の際に使用する控除額が上の通り変更となり、支払期月が 2020 年1月以降となる年金の支払いから適用されます。(変更前の控除額は、65歳未満が6万円、65歳以上が10万円でした)

タイに移住されている方は、日タイ租税条約に年金の規定がないために、日本で源泉徴収される上に、しかもその控除額が不利な方に改正された、ということです。
ちなみに、マレーシア・シンガポールと同様に、日本との租税条約で年金について居住国課税を規定している国は、米国、香港、中国、韓国、ベトナム、フィリピンなど67の国・地域に及びます。一方で、タイと同じケース(日本で年金が源泉徴収されるケース)は、タイの他には、カナダ、スウェーデン、南アだけです。

租税条約が少し身近になったでしょうか。
以上ご参考になれば幸いです。


